Seaside Laboratory

Articles

プロトタイプ版のロックマンワールド

小学生の頃「ゲームボーイ版のロックマンが出るらしい」という話を聞き、ゲーム雑誌を見ながら発売日を今か今かと待っていたが、実際にプレイしてみると雑誌に掲載されているものと違う内容で戸惑った覚えがある。

調べてみると、Wikipedia に同様の内容が書かれていた。

徳間書店のゲームボーイ Magazine での攻略記事において製品版と異なる点があり、製品版ではボス部屋への通路のシャッターは一つだが、記事にはナンバリング作品同様に二つあった。なお発売前の記事であるため、開発中に変更されたものとみられる。

ゲームの内容は面白く、特に問題があったわけではないので「発売直前に変わったのかな?」程度の認識でいたが、ボンボンに掲載されていたロックマンワールドの漫画とゲーム攻略記事をセットにしたコミックスを買った事で混乱させられることになる。

ゲームボーイ用ソフトとして発売された同タイトルのコミカライズ。コミックボンボン 1991 年夏増刊号掲載。

次回作であるロックマンワールド 2 と共に一冊の単行本として発売されたコミックは、ゲーム版ロックマンワールド、ロックマンワールド 2 の攻略記事も掲載された攻略本兼漫画単行本とも呼ぶべき珍しいものであった。

この攻略本、表紙に載っている画面写真の時点で既にあやしい。

画面写真を拡大したもの。
実際のゲーム画面。

見比べると、コミックス版の方は画面上部にライフエネルギー (小) が配置されていて製品版と異なっている。つまり、この本の攻略記事にはプロトタイプ版が使われている。

発売日はロックマンワールド発売 (1991 年 7 月) から約 1 年後の 1992 年 7 月で、しかも次回作であるロックマンワールド 2 の内容が含まれているという状況なので、仮に「手違いで資料が古いままになってしまった」という言い訳をするにしてもかなり苦しく、悪質だと言わざるを得ない。

当時、コミックスが間違った内容を掲載するとは思ってもいないので、「内容が一部異なるバージョンが売られているのでは」という疑念を抱いていたが、カートリッジを買い漁って検証することも、インターネットで調べることもできなかったので、長いこと有耶無耶なままだったが、「Rockman World Prototype」というページを見つけたことで、コミックスに使われていたのはプロトタイプ版だったという確証を得ることができた。

こんな経緯もありプロトタイプ版には特別な思い入れがあるが、一般に流通することのないプロトタイプ版を入手するのは難しく、遊ぶことはできない。ただ、ロックマンワールドのゲーム改造をしていた時にプロトタイプ版のファイヤーマンステージを発見したので、少しだけプロトタイプ気分を味わうことができた。

プロトタイプ版ファイヤーマンステージ

ロックマンワールドが使用しているメモリ上に選択中のステージ (ボス) を格納する領域があるので、そこを書き換えれば任意のステージに行くことができる。そのアドレスに 0 から順に値を入れていって調べたのが以下の表。

ステージ
00 カットマン
01 アイスマン
02 エレキマン
03 ファイヤーマン
04 ワイリーステージ 1
05 ボスラッシュ
06 ワイリーステージ 2
07 ファイヤーマン (プロトタイプ版)

削除されることなく放置されたプロトタイプ版のファイヤーマンステージが 07 に格納されているので、ボス選択画面を開いた状態でアドレス DF8C を 07 に書き換え、そのままボタンを押せばプロトタイプ版ステージへ行くことができる。

当然この作業にはメモリ書き換え可能なエミュレーターが必要で、VisualBoyAdvance であれば、Tool > Debug > Memory Viewer から書き換えを行う。

まず、このステージは他のステージと違い敵がいない。BGM はエンディング曲と酷似しているが発音数が少なく、いかにもβ版といった感じになっている。全てを取り上げていくのは大変なので、大きく違うところだけピックアップしていく。

製品版と比べ背景が暗い。
1UP あり。
ファミコン版にもあった上下に分かれる通路。
ライフエネルギー (大) の代わりに武器エネルギー (大) がある。
問題のシャッター。
単なる背景で機能しない。
製品版だとここにシャッターがある。
床をすり抜け落下。
ボス登場。左側から入ったとしか思えない誤解を招く見た目。
ボス撃破。ボス戦自体は通常のものと違いはない。
ステージとボスの番号が連動している関係かファイヤーストームではなくアトミックファイヤーをゲット。
このパスワードにはアトミックファイヤーは記録されていない。

本来であれば記事はここで終わる予定だったが、調べものをしていたときに偶然プロトタイプ版を発見してしまった。プロトタイプ版を紹介しているページに載っているスナップショットが鮮明なので、吸出しが行われているのは薄々気づいていたが、実際に拝むことができるとは思っていなかった。

本物のプロトタイプ版

プロトタイプ版の大きな特徴は、実機での確認を行う前なのか、全体的にやや暗めの配色になっていること。ステージの構成は少し意地悪なものが多く、難度はやや高め。

先程と同じく、大きく違う部分だけ取り上げていく。

パスワードがまだ実装されていないせいかメニューカーソルが無い。
多少の違いはあるが登場 BGM はファミコン版と同じものが使われている。
カットマンステージ
攻略本表紙に載っていた問題の個所。
シャッター前。
先程のファイヤーマンステージと同様に機能しない。
シャッターを過ぎたところ。
床をすり抜けるところも同じ。
ロックバスターがローリングカッターに吸収されるので意外と手強い。
撃破後のテレポート演出はなし。シーン切り替え時に画面が一瞬乱れる。
倒したボスが空欄にならず再戦可能。
カットマンにローリングカッターを浴びせるなんてことも。しかもかなり効く。
アイスマンステージ
シャッター前。
スージーがシャッターをすり抜けていく様子はちょっとシュール。
カットマンと同様にロックバスターが吸収される。アイススラッシャーは攻撃力が異常に高いので気を抜けない。
エレキマンステージ
梯子につかまった状態で A ボタンを押したときの挙動が若干怪しい。
シャッター前。
あまりサンダービームを撃ってこない。
ファイヤーマンステージ
製品版にあった安全地帯がないので撃ったり避けたり忙しい。
ロックバスターを跳ね返す炎の柱。
シャッター前。
ファイヤーストームもロックバスターを跳ね返す。
ワイリーステージ 1
テレポートアニメーションがなくニュートラルのまま飛び立つ。
キャリーを入手できていないので 1UP を取ることができない。
モールが鬼耐久すぎてローリングカッターを使うとエネルギー不足に陥る。
ロックマンワールド 2 のワイリーステージっぽい作り。
敵の配置がいやらしい。
ワイリーステージは前半の 4 ボスと違って変更点が多い。
シャッター前。ここを抜けた先にある穴に落下するとボスラッシュステージ。
ボスラッシュ
上段のカプセルの端から画面上部へジャンプすると・・・。
スクロール処理がガバガバなので上画面へ移動できてしまう。
BG の切り替えが行われたのか来たときと見た目が異なる。
重力に引っ張られてそのまま落下すると別画面になっている。
何故かカプセル部屋が上部にある。
何が起きたのか分からないまま穴への落下扱いでティウンティウン。
ヒートマン
パレットがおかしい。
部屋を出ると何故か BGM がワイリーステージ 2 になり BG のパレットも切り替わる。
フラッシュマン
パレット切り替えの関係で背景の濃さが変わっている。
タイムストッパーを出す動作をするが発動はしない。
クイックマン
特に変わった点はなし。
タイムストッパーで動きは止められるがノーダメージ。
バブルマン
調整前なのかキャラクターの位置がおかしい。
バブルリードのバウンドが小さく避けるのが難しい。機動力も高く異常に強い。
ワイリーステージ 2

4 体倒すと強制的にタイトルへ戻されてしまうので、プロトタイプ版ファイヤーマンステージを選んだときと同じ要領でワイリーステージ 2 を強制的に選択。

ワイリーステージ 2 は変更点が多すぎてもはや別物。
一度落下してしまうとキャリーなしでは這い上がれない。
ロックバスターが電撃で跳ね返されてしまうのでスナイパージョーになかなか当たらない。
ロックマン 2 の「ピコピコくん」と同じブロック。登場予定だったらしい。
妄想カラー化。
ほぼ全ての攻撃を跳ね返しアイススラッシャーを食らっても凍結状態で動き続ける最強の没キャラ。
「ドリルン」と呼ばれるこのキャラのイラストはオフィシャルコンプリートワークスに載っている。
思わずスライディングしたくなる隙間。
クイックマンステージを模した仕掛けが続く。即死レーザーの代わりがスージーなのは笑いどころなのか。
妄想カラー化。
門番はスナイパージョー。
最後までやる気のないシャッター。
真っ暗な部屋で行き止まり。

強制的にイベント進行をする手段がなく、ここで終了。