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格闘ゲームのワイド化技術

現在はワイド比率のディスプレイが主流なため、昔作られた 2D 格闘ゲームをそのまま表示すると画面左右に余白が生じ迫力に欠けてしまう。これを緩和するため、画面に手を加え疑似的にワイド化した作品が増えてきている。

ワイド化方法

ワイド化する方法は次の 2 通りに分類される。

画面左右に新たな領域を追加する

ワイド画面の左右に生じた余白に新たな表示物を追加するという単純な方式。この方法には以下の問題点がある。

  • 見た目だけでなくステージ (画面端) も広げてしまうと同じゲーム性を維持できなくなる。
  • 古いゲームにはワイド画面を前提としたグラフィック素材が無い。

余白に技表や壁紙を表示するタイプの作品もいくつか存在するが、ゲーム画面自体はワイド化されていないので今回の話からは除外する。

画面上下の領域を削る

従来の画面を切り抜いて比率だけワイド化する方式。この方法には以下の問題点がある。

  • 表示領域を削るのでただでさえ低い解像度がさらに下がる。
  • 画面に対するキャラの表示比率が異常に大きくなる。

「上下の領域を削る」と書いたが、格闘ゲームは地上 (画面下部) を中心としたゲーム展開になるため、実際は上部を削ることになる。

ワイド化が行われたタイトル

MARVEL VS. CAPCOM 2 (2009 年)

PS3 と Xbox 360 で配信されたバージョンには「ワイドスクリーン」オプションが追加されている。

ステージは従来と同じサイズなのでゲーム性は維持されているが、見た目とステージサイズにズレがあるので画面端には「見えない壁」ができてしまっている。また、各種オブジェクトの位置調整も行われていないため、ハイパーコンボ時のカットインが見切れてしまっていたりと見た目の不自然さは否めない。

カプコンもこの問題は認識しているようで FAQ には、

もととなるドリームキャスト版が 4:3 の画面比率で製作されているため、ワイドスクリーンの設定を 16:9 に変更した場合、グラフィックの表示が一部対応しておりません。
こちらは本タイトルの仕様となりますので、なにとぞご了承ください。

と書かれている。

アルカナハート 3 (2011 年)

家庭用移植の際に「ワイド」画面モードが追加された。

ワイド
ワイドモニタ用に背景が左右に伸びて、よりダイナミックにゲームを楽しみたい人向けの画面モード。

オリジナル
アーケード版と同じ感覚でプレイしたい人向け。

「オリジナル」の説明に「アーケード版と同じ感覚」と書かれているように、「ワイド」はステージサイズが大きくなった関係でゲーム性が変わってしまっている。

Youtube にある「アルカナハート 3 オリジナルとワイド画面」という動画では吹き飛ばした際の画面端到達タイミングについて検証している。

「オリジナル」は一足先に受身が発動している。
ウルトラストリートファイター II (2017 年)

グラフィックのリファインと同時にワイド化も行われた。

厳密には 2008 年に発売された「Super Street Fighter II Turbo HD Remix」の時点でワイド化は行われていたが、日本では未発売のタイトルだったため「ウル II」の方を取り上げている。

マブカプやアルカナと違い、領域を削る方式なのでステージサイズに起因する諸問題はなく、解像度が低下してしまう問題もグラフィックの HD 化でうまく回避している。

残るはキャラが異様に大きく表示されてしまう問題だが、実際にプレイしてみるとさほど圧迫感がない。「アスペクト比が変わっている」といった想定外の変更が行われている可能性もあるため検証することにした。

ウル II の画面比率を検証

Switch のキャプチャー機能で取り込んだ「ニュージェネレーション」と「クラシックジェネレーション」の画像を使って検証を行う。

まず「クラシック」の画像から表示領域を切り出す。

オリジナル (1280x720)
表示領域のみ切り出し (960x672)

「クラシック」は CPS の解像度 (384x224) を縦長ピクセルに変換したサイズ (320x224) の丁度 3 倍になっている。

画面幅と同じサイズに拡大したら上部を切り落としてワイド化を行う。

ワイド化 (1280x720)

「ニュー」とワイド化した「クラシック」を重ねて比較する。

スーパーコンボゲージの大きさがほぼ同じなので正しく変換できていると思われる。

見て分かるように「ニュー」は「クラシック」と比べキャラがやや下に配置されている。それに加え体力ゲージもリファインによって細くなっているので画面上部の領域が少し広くなり、結果として圧迫感が軽減されている、という結論になった。