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格闘ゲームのハイレゾ化技術

昔作られた 2D 格闘ゲームが高性能なプラットフォームへ移植されるケースが増えてきているが、低解像度のドット絵を拡大して表示するとジャギが目立ってしまい見栄えがよろしくない。かといって描き直しは手間やコストが掛かってしまうので、元の絵を加工して綺麗に見せるという手法が使われてきている。そこで前から興味のあった「ドット絵を綺麗に拡大する」方法についてまとめてみた。

解像度を表す用語には人によって解釈が異なるものも含まれているが、このページでは以下のような定義で使用している。

用語 解像度
ローレゾ 320x240 (QVGA) 前後
ハイレゾ 640x480 (VGA) 前後
HD 1920x1080

2 大格闘ゲームメーカーである CAPCOM と SNK のアーケード基板は以下のようなスペックになっている。

メーカー 基板 解像度 備考
CAPCOM CPS シリーズ 384x224 シリーズすべて同じ解像度。
SNK NEOGEO 320x224 304x224 しか使わない作品が多い。

ピクセル拡大アルゴリズム全般について知りたい場合は、英語版 Wikipedia の Pixel-art scaling algorithms を参照。

CAPCOM

Super Street Fighter II Turbo HD Remix (2008 年)

元の絵を拡大して使うのではなく全て新規描き下ろし。今回の趣旨からは外れているが事例として紹介。

スプライト枚数が少ないゲームだからこそ使えた手法ではないだろうか。
残念なことに製品版は制作効率の関係でグラフィックが大幅に簡略化されている。
絵の繋ぎに対する配慮がないのでアニメーションがガタついてしまっている。
MARVEL VS. CAPCOM 2 (2009 年)

HD 機へ移植する際に各種フィルター機能が搭載された。

classic はフィルターなし、smooth は 2 倍、crisp は 3 倍のバイリニアフィルターとのこと。
Street Fighter III 3rd Strike Online Edition (2011 年)

MVC2 と同様に HD 化移植。

hq2x のようなフィルター。MVC2 と比べてだいぶ奇麗に見える。
元画像の正確性よりジャギ消しを優先している印象。
ジョジョの奇妙な冒険 未来への遺産 HD (2012 年)

この頃になるとローレゾ作品を HD 化するのが定番に。

3rd OE と似たようなフィルター。陰影がマンガ調の斜線エフェクトになっている。
VAMPIRE RESURRECTION (2013 年)

MVC2 と同じ描画エンジンを使っているのか、描画モードも同じものが用意されている。

左から順にフィルターなし、スムーズ、クリスプ。
輪郭線を強調したタッチなせいかあまり綺麗には見えない。

SNK

THE KING OF FIGHTERS'94 RE-BOUT (2004 年)

HD Remix と同じように新規描き下ろし。

コメントに困る微妙なクオリティ。
サイズを拡大したのにもかかわらず 16 色のままなのでグラデーションの荒さが目立つ。
THE KING OF FIGHTERS XI (2006 年)

背景がハイレゾ、キャラがローレゾという移行期の作品。画像をぼかすという安直な手段を使ってしまったため、ジャギは軽減されたが画質は大幅に劣化している。

こんな中途半端ならドットを前面に出したほうがマシ。
THE KING OF FIGHTERS XII (2009 年)

とうとう KOF シリーズもハイレゾ化。Wikipedia には「HD で新規描き下ろし」と書かれているが、実際のサイズはハイレゾ相当。

原型として起こした 2D キャラクターをいったん 3D モデル化し、さらにそのモーションをつけたものを 2D にレンダリングすることによって、ドット絵としてはこれまでにない存在感と滑らかな動きを実現しようという狙いです。そのため制作工程には膨大な作業量が発生し、スタッフにとて非常にタフな開発作業となりました。社内でも「それまでするのか」という声が上がりましたが、開発チームは最高の 2D 対戦格闘を創るという一点にこだわり、この手法を採用したのです。

多くの作品では「アニメ塗りにして作業量を減らす」という手法が使われているが、この作品は従来のドット絵に近い手法で描かれているので、誇張なしに膨大な作業量だったと思われる。

NEOGEO BATTLE COLISEUM (2010 年)

Xbox360 移植時にハイレゾ化。

バイリニアで拡大後に手動修正という感じか。

拡大アルゴリズム

hqx (High Quality x)

エミュレータなどに多く組み込まれている拡大フィルター。hq2x や hq3x といった拡大率別に名前が付いている。

名前の通り画質は良好。

Scale2x という似たようなフィルターもある。

Depixelizing Pixel Art

マイクロソフトの人が考えたドット絵のベクトル画像化アルゴリズム。

Naive upsampling of pixel art images leads to unsatisfactory results. Our algorithm extracts a smooth, resolution-independent vector representation from the image which is suitable for high-resolution display devices.

ピクセルアート画像の純粋なアップサンプリングでは満足のいく結果が得られません。我々のアルゴリズムは、高解像度ディスプレイに適した滑らかで解像度に依存しないベクトル表現を画像から抽出します。

かなり滑らかだが丸みを帯び過ぎている感も。
waifu2x

AI を使った画像拡大アルゴリズム。

画像を拡大するのではなく、縮小される前の状態に戻します。
縮小されてないオリジナル画像を与えた場合も、やはり縮小される前の画像を答えます。
その画像は本来存在しないものですが、waifu2x はそれを想像で創ります。

イラストを拡大したときのような品質は得られず。

ドット絵は画像を縮小して作るものではないので、良い結果が得られないのはあたりまえなのかもしれない。

Vector Magic

Cedar Lake Ventures が提供している、ビットマップ画像をベクター画像に変換するオンラインサービス。

ベクター化することで拡大時の劣化を抑える。
Flash でよく見かけた「いかにも」なベクトル画像。
Vectorizer.AI

Vector Magic と同じところが提供している別のサービス。

基本的には Vector Magic と同じベクター化。

We've been working in this space for 15 years and adding AI has been a game changer. It is able to tease out details that traditional methods miss, and it makes sensible guesses when the pixel data is ambiguous. We developed the Deep Learning models for this product fully in-house, and they are trained on our own proprietary dataset.

私たちはこの分野で 15 年間働いてきましたが、AI の追加はゲームチェンジャーでした。従来の方法では見落としていた細部を引き出すことができ、ピクセルデータがあいまいな場合は適切な推測を行います。この製品のディープラーニングモデルは完全に社内で開発され、独自のデータセットでトレーニングされています。

Vector Magic より滑らかだが悪化している部分もある。